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静岡地方裁判所 昭和37年(わ)358号 判決

被告人 大原用子こと李今礼こと李敬尼

大一三・九・二〇生 無職

主文

被告人を禁錮四月に処する。

但し、本裁判確定の日から弐年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は韓国に国籍を有する外国人で、昭和三十年五月二日下関市長に対し旧外国人登録法第三条第一項所定の外国人登録を申請し、同日同市長から外国人登録証明書の交付を受けているものであるが、右登録の日から二年を経過する昭和三十一年五月二日前三十日以内に、その居住地の市町村の長に対し、登録原票の記載が事実に合つているかどうかの確認を申請しなければならないのにこれを怠たり、昭和三十六年八月三十日まで不法に本邦に在留したものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の違用)

被告人の判示所為は外国人登録法第十一条第一項、第十八条第一項第一号、同法附則(昭和三十一年五月七日法律第九六号)第二項に該当する。(なお、前掲各証拠によれば、被告人は、昭和三十一年一月六日下関入国管理事務所において出入国管理令第二十四条第一号該当容疑者として収容せられ、同年二月二十八日付で退去強制令書が発付せられ、同年三月十四日川崎入国者収容所浜松分室に移送され収容中のところ、昭和三十二年一月二十六日仮放免を許可されたものであること、右仮放免に当つて入国管理事務所長は、当時の外国人登録事務執務提要(昭和三十一年六月二十六日付法務省管登合第三五六号局長通達別冊)にもとずき被告人については外国人登録法上新たな手続はこれを保留しておくこととして外国人登録証明書を同所長において領置する取扱をなしたことを認め得る。ところで外国人登録法の解釈上は、同法第二条第二項において「外国人」とは、日本の国籍を有しない者のうち、出入国管理令(昭和二十六年政令第三一九号)の規定による仮上陸の許可、寄港地上陸の許可、観光のための通過上陸の許可、転船上陸の許可、緊急上陸の許可および水難による上陸の許可を受けた者以外の者をいうと定義されており、本件被告人の如く同令第五十四条にもとずく仮放免の許可を受けた者を除外していないから、これらの者については当然外国人登録法上の諸手続をなすべき義務が課せられているものと解するほかないが、被告人は前記の如き取扱例に従つて仮放免せられたものであるから、その条件に違つている限りにおいては、本人に対する仮放免許可書および関係市区町村長宛「退去強制容疑者動静通報」によつてその居住関係および身分関係は明確であつてさらに同法第十一条第一項にもとずく確認申請をなすべき実益に乏しく、また、入国管理事務所側において仮放免許可者に対し同法上の手続をさせないように運用し、外国人登録証明書もこれを領置しておく取扱をしていたのに、通常人である被告人に対しさらに同法上の右確認申請をなすべきことを期待するのは酷に失し、その可能性はなく、したがつて右不申請に対する刑事責任を負わせることはできないものと謂うべきであるけれども、前掲各証拠によれば、被告人はその本国に送還されることをおそれ、昭和三十二年三、四月頃仮放免の条件に反して大阪方面に逃亡したことが明らかであるから、かような者に対してはもとよりその居住関係および身分関係が不明確となる虞れがあるので外国人登録法上の諸手続をなさしめてこれを明確ならしめる必要があるのみならず、前記取扱例もかような者に対してまで登録法上の諸手続を保留せしめておく趣旨とは到底解せられないから、被告人については右逃亡当時、外国人登録法上の諸手続をなさないことに対する前記理由にもとずく不可罰性は解除せられ、以後処罰可能の状態にいたつたものと解するのが相当である。)そこで、犯情により所定刑中禁錮刑を選択してその定める刑期の範囲内で被告人を禁錮四月に処すべく、なお、諸般の事情を考慮した上同法第二十五条第一項第一号を適用して本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

(裁判官 高橋久雄)

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